日常と非日常

記録など

小説、日記、旅行記とか、を、書く予定です。

勢い

今日起こったことについて書こう。

 

アルバイトの後、だいたい二十分かけてバス停まで歩く。今日、その道すがらに僕が見たものは、子猫と小さなトカゲ、リス、大きな犬だ。

 

子猫は黒かった。まだ生まれて間もないのであろう。彼女はきっと、バンコクの道路の惨状をまだ知らない。飲み物屋の軒先で飼い主である店主と戯れていたのだろうが、何を思い立ったのか、鈴のついた青い首輪をつけた彼女は、店主の腕から飛び出したのだ。

飛び出して、一瞬、僕と目が合って、また何かを考え、僕の横をすり抜けようとした。向かう先は、殺人自動車たちの行き交うバンコクの車道である。反射的に僕が彼女の行く手を足で阻んだその隙に、青い顔で追ってきた店主は、黒猫をつまみ上げる。

僕がひとこと「危ない」と言ったら、店主は「本当に危ない」と首を傾げながら返した。青い首輪の黒い子猫が、店のそばに置かれた木箱に放り込まれるのを見て、僕はどういうわけか寂しい気持ちになってしまったのだが、理由はわからない。

 

小さなトカゲとリスはそれぞれ、よく走って僕の前を横切り茂みに入っていった。

 

大きな犬、二匹の大きな犬らはバイク屋のお兄さんの言うことは聞くのだろう。時々バイク屋の前で半目を開けて昼寝をしている。土佐犬のような見た目の、いかにも凶暴そうな二匹だ。いないことの方が多いのだが、もちろんいつも彼らがいる可能性を頭の片隅には置いて前を通る。

今日は何となくいないような気がしていた。ところが、塀が途切れると、そこには二匹の犬が目の前に寝そべっている。彼らはすぐに目を覚まし、吠えながら僕に飛びかかって来る。もちろん、僕はすぐ彼らに背を向け走って逃げ、道路の向かいの歩道に渡った。

重い鎖を引きずりながら二匹の犬はつまらなさそうにこちらを見ていた。バイク屋のお兄さんは「大丈夫だから通れよ」という風に刺青だらけの腕を回している。僕を安心させようとしているのだろうか。まずは、あの鎖の長さを教えて欲しい。

 

バス停についた頃にはもうすっかり疲れ切っていた。そこからまた二十分待ったのだが、僕の住処の方面へ行く乗り合いバンは今日も通らなかった。二十分以上は待たないと決めているのだ。タクシーに乗った。タクシーは時速百キロで片道四車線の一番内側を飛ばし、前方にとろくさい車があればそいつが退くまでクラクションを長押しするもんだから、十分少々で帰った。運賃を支払う時に見た運転手の顔は驚くほどに穏やかで、僕の心も幾分静かになる。

 

せっかく部屋から出たのだから、コンビニ以外で昼飯を食おうと、今日はアルバイトへ行く前から決めていた。僕のアパートのある曲がり角より少し先の、昔住んでいた通りへの角でタクシーを降り、フランス人の先輩が緑のレストランと呼んでいた店へ行く。

カオパッポンカレーという、辛さは控えめなカレー粉を使ったご飯は、コンビニで売られている何かを別とすれば、数日ぶりに食べる料理である。匙のひと掬いごとに、やっぱり美味いな、と思いながら食べた。一口ごとに、何度も瞬きをしながら、首を捻る。

振り返れば、コンビニで買った出来合いのものを食う時、人がものを食わなければ死ぬということを、僕は強く感じながら顎を動かしていた。しかし、人はものを食いながら生を思うべきだろう。

 

締まりが悪くなるが、忘れるわけにはいかないので書いておこうと思う。緑のレストランからの帰り道で、日傘を差していた濃い肌の女の子とすれ違ったのだが、その時、彼女の容姿に僕はそうあるべきだと感じたのだ。

彼女は背が高く、ワインレッドに紺と白の格子柄の入った長袖のシャツを全部のボタンを閉め、腕をまくって着ており、下にはデニムのショートパンツを穿いていたと思う。雑な格好ではあったが、それより目についたのは髪型だった。

ボサボサのおかっぱだったのだが、もうはっきりと思い出すことはできない。前にも髪が突き出ていたという記憶があるが定かではない。絵で思い出そうとすると、他の女の顔が浮かんで全部駄目になってしまう。それだけだ。

いろいろね。